きっかけは、君が映ったスフィア‐……。
夢、かな。
…って、初めはそう思った。
でも、違った。
キミは、確かにそこに立って、私を見ていた。
「…何してるんスか?」
私がシンを倒して、祈り子様が消えて、キミも、消えた。
もう会えないと思っていた大事な人が目の前にいる。
夢、じゃないんだよね。
「なんでもないッス!」
敬礼するように手をおでこに当て、私は微笑みながら答えた。
コツン。
キミが私のおでこを軽く叩いて、微笑み返す。
「…夢じゃないんだよねぇ…」
確かにここにいる気配。
触れることの出来る体。
彼がここにいるという確信。
「いつまでそんな事いってるんスか、俺はずっとユウナの隣にいるッス」
「うん、解ってるんだけど…私、怖いんだ。またキミがどこか遠くへ行ってしまいそうな気がして…」
一瞬、きょとんとしたキミの表情が見えた。
そうだよねぇ…私、何言ってるんだろう。
キミは帰ってきたのに…。
「俺はもう消えたりしない」
キミの表情が真剣な顔つきになって、真直ぐな瞳が私の目を見てる。
「前にも言ったろ?俺がユウナの事、ユウナが俺の事、お互い大事に思ってれば、大丈夫だよ」
ザナルカンド遺跡でキミが言った言葉。
今でも、ちゃんと覚えてるよ。
「…うん…解ってる、でも…キミが消えたあの悲しさ、心に残って…」
ちゅ。
おでこに、柔らかい感触。
気が付くと、君の顔がすぐ近くにあった。
おでこに、キス。
ふわって、春風のような笑顔を見せて君は言った。
「ユウナが俺を呼んでてくれる限り、俺は消えたりしないよ、大召喚士様」
大好きなキミの、大好きな笑顔。
私のどんな不安も吹き飛ばしてくれる風。
ふわりと不安を巻き上げ、遠いところに飛ばしてくれる。
だから私も笑顔になれる。
大好きなキミの、その笑顔。
「キミに似た…シューインが映ったスフィアを見つけなければ、今こうしてキミと一緒に居られなかったかもしれないんだよねぇ…」
そっと腕に触れながら、私は言った。
私がスフィアハンターにならなければ、もしかしてキミに会えなかったのかもしれない。
シューインの想いが無ければ、あのスフィアは存在しなかったかもしれない。
シューイン…。
そして、レン。
「…1000の言葉って、どんな言葉なんだろうね」
「…どうしたんッスか、突然」
「シューインの想いがあったから、あのスフィアがあった訳で…シューインに伝えたかった想いが歌になって私の中に溢れてきたの」
「リュックから聞いてる、雷平原のライブの話だろ?」
「うん、その歌のなかにね、“言えなかった1000の言葉を 遥かな君に贈るよ”ってあって…一体どんな言葉なのかな、って思ったの」
キミの手が私の髪をなでる、心地よい感触。
そっと私は、キミの胸の中に顔をうずめた。
心臓のかすかな音が頭の中に響く。
ああ、ここに居るんだねっていう実感がわく。「…レンって召喚士だったんッスよね?」
「うん」
髪を撫でた手が、そっと私を包み込む。
キミの体温に、包まれていく。
「シューインはガードみたいなもんだったんッスよね?」
「良くは分からないんだけど…多分そうなんだと思う」
「俺、男だからレンの言いたい1000の言葉って言うのは良く分からないけど、シューインの言いたかった1000の言葉なら、ちょと解る気がする」
レンからシューインへの言葉じゃなくて、シューインからレンへの言葉。
考えても見なかった言葉。
「俺もユウナのガードだったから…シューインの気持ち、解るッス」
「…そっか」
「コレは俺、シューインから君、レンへの1000の言葉」
キミはなんだかシューインになりきったように話し始めた。
「レンが召喚士でなくて、ただの歌姫ならよかった。そしたら…俺はずっとレンの側にいる事が出来た」
そっと顔を上げると、キミの視線とぶつかった。
「機械戦争さえなければ、キミを危険な目に合わせないで済んだはずなんだ」
真剣な表情の、キミ。
「だから…だから俺は、旅立つレンの背中を見て、一人で戦うのかって聞いたんだ」
あ、これ、あの歌の歌詞。
「ずるいって思った」
私、キミにこの歌の歌詞は言ってないはずなのに…。
「大丈夫だよ、帰ってくるから。そういってキミは笑ったけど、劣勢のザナルカンドに勝因は…ない」
もしかして…シューイン?
「せめて、キミを助けたかったんだ。大事なんだ…愛してるんだ…・・ユウナ」
「…」
君の名前を呼ぼうとした瞬間、キミは優しく笑った。
「もし俺がシューインで、ユウナがレンだったら、俺はこう思ったッスよ」
「…しゅ、シューインかと思った…」
「俺は俺ッス!」
「ですよねぇ・・・?」
こつん。
おでことおでこがぶつかって、君を近くに感じた。
「でも言った事は本当ッスよ、ユウナの事愛してるッス」
そっと触れ合うキミの唇。
優しい気持ちが流れ込んでくる。
マカラーニャの森でも感じた、この感触。
大好きな人の、優しい気持ち。
好きだよって想い、流れ込んでくるよ。
「私も-…」
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